あの悪夢の峠越えから一夜明け、外は雲が多いながらも晴れていた。久々の晴れ間だ。私はいつもより1時間遅らせて8時に起床したが、2人は疲れがひどいらしく、全く起きる気配がない。10時前、こちらが出発しようというところで1人は起きてきたが、もう1人は眠ったまま。軽く挨拶を交わした程度でお別れとなった。
さて、次の小屋までは12kmほどだが、この日は天気が良いので、その次の小屋まで、20kmあまりを一気に歩くつもりだ。昨日の疲れがあって体は重いが、もう最難関はクリアしているので、きっと歩くことはできるだろう。
セルカ小屋を出発すると、さっそく雪道が待ち構えていて、しばらくは良い道を探しながら、雪の中を歩いていくことになる。辺りを見渡すと、右手にセルカ(Sälka)の山々が迫り、左手にはいくつもの谷を隔てて穏やかな山並みが続いている。所々迂回しながら歩いていくが、天気が良いとやはり気持ちが良いものだ。

セルカ山群

相変わらず穏やかな山並み
途中からは踏み跡が見られるようになったので、それに従って歩いていくと柵が登場。ここは右に迂回して越えていく。この先は踏み跡がわからなくなったので我流で進むが、前方の視界は良好で、ストゥオル・イエルタ(Stuor-Jierta:1544m)が特に印象的な姿を見せている。展望地に出たところで位置を確認するが、ここで正規の道とは随分離れていることに気づき、左に修正しながら前進。が、そういう時に限って湿地帯にはまり、靴を一層濡らしてしまった…

ストゥオル・イエルタ

仏のような山
幸い無事トレイルに合流し、事なきを得た(そのまま進んでいたら、川に行く手を遮られるところだった)。橋を渡るとまもなく、避難小屋が登場。ここまで来るとだいぶ雪が減ってきて、通常のスピードで歩くのも問題なくなってきた。ともあれ、ここで昼食休憩にして、久々にのんびりと過ごした。
小屋から数キロ進むと、分岐が登場する。ここで右に行けば、最寄の小屋まで3kmほどだが、左に行けば、次のケブネカイセ(Kebnekaise)まで数キロのショートカットとなる。この道は標高980mまで上がるので残雪を心配していたが、見たところそれほどでもなさそうなので、思い切って近道することにした。
分岐からは緩やかに登っていく。右手には雄大なルスカ(Rusjka:1708m)の姿があり、背後には来し方の山々が一望のもとになっている。だが、気がつくともう雪雲が迫っているではないか。行く手はまだ晴れているものの、悠長に過ごしていると雪歩きを強いられるので、先を急ぐことにする。

ルスカ

来し方から雲が迫る
最初の登りをこなすとさらに緩くなり、思ったよりも楽に歩くことができる。そして、ほぼ丘の上に到達したところで、前方にリッドゥバクティ(Liddubákti:1759m)が姿を現した。このコースの山にはふさわしくない(?)、切り立ったピラミッド型の姿が印象的だ。さらに、その奥にも雪を戴く険しい岩肌が見えてきて、迫力ある景観となっている。

リッドゥバクティ
コースはやがて下りになるが、この辺りはまだ残雪が所々あるので、注意しながら歩いていく。下るにつれ、リッドゥバクティが覆いかぶさるような迫力で迫ってきた。そしてこの頃から、ちらほらと雪が舞い始めた。やはり恐れていた通りの展開が…しかも風が強まってきて、雪がちらついているのか、風に雪が煽られているのか、わからないほどだ。ただ確かなのは、天候が悪化しているということ。いよいよ先を急ぐしかない。

リッドゥバクティが迫る
下り終えたところで本道と合流。ここからは谷底近くを、ほぼ平坦に歩くことになるのだが、まだ雪が残っているところがあるので気をつけながら進む。しかしそれもつかの間、雪はほぼなくなり、川岸に沿ったお気楽な道になった。ようやく雪道を脱出したようで、良かった良かった。
むしろ危険だったのは、背後から強風が吹いていて、それに追われるように歩いていたこと。雪も舞って、休むに休めない状態になってしまった。しばらく進むと、前方左手に異様なドゥオルバゴルニ(Duolbagorni:1662m)が登場。その背後にスウェーデン最高峰のケブネカイセがあるはずだが、あいにく山頂付近には雲がかかっていて、その姿を見ることはできない…

ドゥオルバゴルニ
風に追われるように歩くと、やがて岩盤の上を進むようになった。もう次の小屋は近いはずだが、その姿はまるでない…まだかまだかと歩いていると、橋の手前に右への標識があるので右折。が、そこは妙に狭い道で、残雪もあり、疑問に思いながらも歩いていくと、周囲に小屋の姿はない。しまった…元に戻ると、標識には別の場所の案内が書かれていたのであった(逆からでは見えなかった)。
橋を渡って緩やかに登っていくと、前方に人工の塔を発見。どうやら、あの下に小屋があるようだ。そして、最後の力を振り絞って、ようやくケブネカイセ山荘(Kebnekaise Fjällstation)に到達。ここもまだ休業中で、従業員たちが開業の準備をしている(山小屋にしては大きい)。
開放された建物に行ってみると、幸い他に誰もおらず、久々にのんびり過ごすことができそうだ。それに、ここまで来れば残りは20km足らずの下り道。標高も700m程度まで下がってきたので、もう雪の心配はいらない。ようやくホッと一息ついて、最後に備えるのであった。