この「世界自然旅」も、オセアニア、北米、南米と、1年あまりかけて曲がりなりにも旅を続けることができた。マラソンに例えれば、今は折り返し点を過ぎたところ。これからヨーロッパ、アジアと続く旅も、新たな気持ちで迎えたいと思っている次第である。
と言うのも、これまでの地域、特にアラスカ、パタゴニア、そして南極と、世界有数の大自然を見てきた後では、ヨーロッパはどうしても見劣りしてしまう(これは、ヨーロッパにおけるUNESCO世界自然遺産の少なさにも表れている)…しかも、南米で開発途上国の面白さを知ってしまうと、ヨーロッパの物価の高さ、旅行者の多さ、人工的な世界はネックになりかねない。
本当なら、オセアニアの次にヨーロッパに渡っていれば、順番としては良かったのかもしれない。自然のスケールと多様性、人の面白み、治安等という点で、この方が徐々にステップアップしていくので、それなりに感動できたであろう。少なくとも、あの南極の後に迎えるよりは…
ともあれ、この順序ははるか昔に決めてしまったので、いまさら悔いても仕方がない。これまでの地域と比較するのではなく、ヨーロッパはヨーロッパとして、旅をしていきたい。
ところで、そのヨーロッパだが、一般の日本人旅行者にとっては最も馴染みのある地域と言って良いだろう。各種ツアーが常に出ているし、行きたいところとして必ず上位にランクインしている国ばかりだ。毎年、ヨーロッパに通い詰めている人も多い。
しかし、個人的には実は、ヨーロッパは最も事前の情報が少ないところであった。他の地域、オセアニア、南北アメリカ、アジアについては、旅を始める前から、行きたいところと旅行スケジュールを具体的にイメージできていたのだが、ヨーロッパは北欧とアルプスが漠然とイメージできる程度。どこを見るべきか、どのように周遊すべきかなど、具体的なイメージには乏しかったのである。
そこで、南極から帰国後、試しに『地球の歩き方』ヨーロッパ編を購入してみるが、これが使えない…載っているのは主要都市の観光情報ぐらいのもので、今回の「自然旅」に関わる項目はほとんどないと言って良い。あるのは文化、芸術、建築、遺跡、それにグルメにショッピングといった情報ばかり。やはりヨーロッパと言えばこういうイメージなのか、各国の観光局に行って資料をあさってみても、ほとんど同種のものばかりだった。
無論、こうした情報が無意味だなどと言うつもりは毛頭ない。しかし、個人的な関心、今回の旅の趣旨からすると、どうしても物足りないのである。
結局、こうして情報不足のまま時間切れ、旅を始めることになった。出発地には、候補としてイギリス、スペイン、イタリア、トルコなどがあったが、ひとまず旅を始めやすいロンドンから入り、イギリスとアイルランドを駆け足で周遊した後に春の北欧へ、その後アルプスでハイキング三昧、となりそうである(自然をメインに考えると、実はアイスランドやグリーンランドも魅力的なのだが、ただでさえ渡航費用がかさむ上、初めに行くには寒すぎるし、シーズンはアルプスと重なるので、今回はあきらめることにした。南欧や東欧、ベネルクスなども時間の関係で省略せざるを得ない)。
出発前には、南米で損傷をこうむった品々、具体的にはノートPC(NECのLavie J)、コンパクトデジカメ(PENTAXのOptio S40)、バックパックなどを購入し、どうにか以前の体制に戻ることができた(さらに今回は、自前のPCでのネット接続が困難と予想して、USBメモリを持参していく)。
相変わらず旅慣れていないためか、荷物が重いのはご愛嬌としても、これまでの旅の蓄積があるので、気分的には楽だ。治安はチリやアルゼンチン並み(南米の中では別格の治安の良さだった)と考えれば良いし、旅行の進め方も、オセアニアの時と同じように、その日その日よりちょっと前に予定を決めていけば良いだろう。またヨーロッパでは鉄道が発達しているので、北米のように車がないとどうしようもない、ということもない。格安だった南米の後では物価高は痛いが、グルメ狂ではないので、北米同様、安飯だけで済ますことも十分可能である。
しかし、それも旅の盛り下がりを演出する一つの材料になっている。これまでは未知なる地への憧れで、多少の不安は感じつつも、行く前から楽しみで仕方がなかった。しかし、ヨーロッパは違う。早くから人が住み着き、文化が花開き、そして開発が進められた。今ヨーロッパに残っている自然とは、辺境の地ゆえに取り残されたところか、人工的な美しさを守ってきたところがほとんど。牧歌的な風景に出会えるのは確かだろうが、心から湧き上がるような感動を味わえるものか、疑問を抱かざるを得ない。
初っ端からこんな調子で恐縮だが、これが出発前の偽らざる気持ちである。盛り上げねば、と思ってもイマイチ心が盛り上がらない、という状況なのである。だからこそ、下手に欲張って様々な国や地域を訪れるのではなく、関心のある北欧とアルプスを重点的に周ることにしたのだが…果たして盛り上がれるのだろうか。