オセアニア、北米に続いては、いよいよ南米に向かう。これが初めての途上国の旅であり、従来とは違った楽しみが期待できるが、同時に不安も大きく、旅立ちを前にして複雑な心境である。
期待は、当然ながら大きい。これまでのオセアニアと北米は、比較的安心して旅が出来るものの、勝手知ったる欧米的な世界の旅であり、刺激という意味では十分でなかった。それに比べると、南米などの途上国では、多種多様な価値観に出会うことができる。普段見聞きする情報ではわからない、まさに異文化の世界を旅するわけだから、これは面白そうだ。
それに、興味深い観光スポットも多い。アンデス(Andes)、アマゾン(Amazonas)、パンタナール(Pantanal)、パタゴニア(Patagonia)、そして南極(Antarctica)など、魅惑的なエリアが広がっていて、どう周ったら良いか悩んでしまうほど、見所満載なのである。
しかし、それと同じぐらい不安も大きい。マラリアやデング熱、狂犬病などの疫病、交通機関の遅延や事故など、様々な問題が挙げられるが、中でもやっかいなのが治安である。
南米は政情不安定な国が多く、チリ(Chile)とアルゼンチン(Argentina)を除けば、詐欺や強盗などが横行しているという。銃犯罪も増えていて、当然旅行者はそのターゲットになりやすい。場所によってはバスやタクシー、宿の人間も信用できず、ニセ警官までいるというから、何を信じたら良いのかわからないほどだ(実際、チリ以外は外務省から渡航危険情報が発令されている)。
こうした情報が正しいなら、かなり問題である。なにしろこちらは1人で、かなり重たい荷物を背負っている(30kgぐらい)から、集団で襲われたり、銃で脅されたりしたら一たまりもない。これでは、期待と不安が交錯するのも理解できるだろう。
しかし、そんなことで思い悩んでいても始まらないので、まずは旅の計画を立てることにする。今回は10月後半から4ヵ月程度と考えていたが、問題はどう周るか…と言うのは、南米では雨季と乾季がはっきりしているので、それを十分に考慮しないと、ひどい目に遭いかねないからだ。
今回の旅で重点ポイントと考えていたのは、ギアナ高地(Macizo Guayanes)、ウユニ塩湖(Salar de Uyuni)、パタゴニア、そして南極である。このうち、パタゴニアと南極は、夏にあたる12~2月頃がベストだから、旅の最後に周るのが良い。一方、ギアナ高地は雨季明けの11月前後、ウユニは雨季の1月が最適なので、その頃に周れるよう計画する必要があった。
次に出発地について考えると、当初は中米のコスタリカ(Costa Rica)やガラパゴス諸島(Islas de Galápagos)、あるいはブラジル(Brasil)あたりにしようかと思っていたが、中央アンデスやアマゾンが11月から雨季に入ってしまうので、ここは早めに抜けなければならない…となれば、直ちにペルー(Perú)の首都・リマ(Lima)に入り、アンデスとアマゾンを手早く周らないと間に合わないと考えられた。
そのため、今回はガラパゴスやブランカ山群(Cordillera Branca)は諦め、まずはリマからスタートすることにした。そして、アンデス、アマゾン、ギアナ高地と周ったらウユニ経由で南下し、最後にパタゴニア、南極と周るというルートに落ち着いたのであった。
とはいえ、途上国ではあまり詳細に計画を組んでも仕方ないし、組むべきでもない。交通機関の遅延はよく起こるし、途中で思わぬトラブルに見舞われる可能性も高いので、大雑把な計画に留めるべきである。後はその場その場で、臨機応変に対応するしかない。
でも、押さえるべきところは押さえようと、ひとまず人気の南極クルーズを予約。続いて、出だしは無難にスタートしたいので、知人のいる「地球探検隊」を通じて、リマ発の現地発着ツアーも申し込んだ。そして、それに合わせて航空券も手配して、何とか出発を確定することができた。
それからも、出発まで慌しく準備をこなすことになる。南米では、ブラジルやベネズエラ(Venezuela)などで黄熱病のイエローカードが必要なので、検疫所に出向いて予防接種を(軽い気持ちで)受ける。が、注射後まもなく副作用が出て悶絶…脂汗をかきながらも耐えて、事なきを得たが、これはもう二度と受けたくないと思ってしまった。
さらに、ブラジルのビザを取得したら、南米で主流のスペイン語を勉強する。これも一朝一夕で学習できるはずはないが、まずは基本的なフレーズを覚え、後は最初のツアー中にもっと覚えようと心に誓った。
そして、南米と言えば治安に不安があるので、今回新たにpacsafeという、バックパックにかぶせるネットを購入。また重要書類はコピーして何箇所かに保存し、貴重品も分散するなど、防犯対策に努めた。これでどこまで防げるかは未知数だが、予防とともに事後対策も施しているので、有事の際も何とかなると信じたい…
こうして限られた時間の中で準備を進めたが、その途中、ボリビア(Bolivia)で反政府運動が勃発し、ラパス(La Paz)で死者が出るほどの騒動となって、国境が封鎖されたとの報が舞い込んできた。もともと、最初のツアーでボリビアに抜けようと思っていたのに、いきなりの計画変更だ。今後もこうしたことは起こり得るので、これを教訓に、その時々で冷静に判断しなければと改めて思い知らされた。
ともあれ、1ヵ月の準備期間では十分でなく、例によって準備不足のまま出陣することになった。この旅が、2年に渡る「世界自然旅」が成功するか否かの試金石になると思うので、心してかかる所存である。今回は、まさに試練の旅なのだ。