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旅巧館旅行記オセアニア

旅行記:オセアニア編(世界自然旅)

序.旅立ちの時

 創造的破壊

 30歳を目前にして旅に出る…多くの人にとっては、憧れこそすれ、現実には実行し得ないことかもしれない。ただでさえ就職難、失業率の上昇、先行きの見えない経済情勢と、不安定要素であふれているうえ、この先は年齢制限という壁が待ち受けている。学生時代ならまだしも、こんなことは成熟した大人がするべきではない、と思うだろう。だから今回の旅の計画を公表すると、大方の意見は、ある面で羨ましいけれど、よく決断できたな、というものであった。

 驚かれるかもしれないが、今回の計画を「空想」し始めたのは、5年あまり前、就職する前に遡る。当時、そのうち長期海外旅行でもしたいものだとの想いもあったが、それ以上に、このままいったら自分自身がジリ貧になりそうな漠とした不安があった。お蔭様で高等教育を受けることで、それなりの知識を獲得することはできた気がするが、生きるうえでの知恵はまだまだ足りない。社会への閉塞感を感じずにはいられなかったが、それよりも自分自身に対する閉塞感の方が強かったのだ。もっと人間としての幅、器量を広げなければ…

  そこで、大学院を出て、4~5年ぐらいかけて一通りの社会勉強をしたら、いったんこれまでの人生をリセットして、再構築するべきとの結論に達した。創造的破壊、自己再構築…年取って保守化してしまう前に様々なことを吸収し、柔軟な人間性を身につけたい。そういう想いがあったのだ。そしてこれは、会社生活に束縛される中で、強まることこそあれ、決して弱まることなく熟成されてきたのである。

  もちろん、この2年間の旅路を終えた後、仕事の当てがあるわけではない。しかし、そんなことを恐れていたら何もできないし、何もしなければ、他人と同じレールの上を歩いていかなければならない(そうした「世間並み」の生活を送ることを「大人になる」と勘違いしている人も多いようだが)。私自身、自分の平凡さを自覚しているつもりなので、他人と同じことをしていたのでは、人間として十分に成長できないと思っている。だからこそ、自分自身の成長過程において、今回のような時が必要なのだ。

 生きるということ

 それに、旅をしていろいろな人と巡り合うと、この想いはますます強くなる。旅先では、脱サラして移住した人、各地を放浪している人など、様々な人と出会うが、彼らはとても生き生きしている。自分のやりたいように人生を生きているからだろう、とても充実しているのが、側から見ていても良くわかるのだ。

  それに引き換え、真っ当なことを言う大人たちの多くは、仕事や人生に疲れて疲弊している。若者でも同様で、元会社の後輩などは、会社に対する不平不満を常にこぼしているくせに、具体的な措置は何ら取らず、ただ馬車馬となって奉仕している有様だ。そして、年を取って体の自由が効かなくなって初めて、もっと若い時にこうしておけば良かったなどと思うようになるのだ。

 いったい、生きるとは何だろう。それは人それぞれ、と言ってしまえばそれまでだが、いずれにしても後悔するような人生は送りたくない。150年ほど前、30歳前になって『森の生活』を始めたソローは言う。「僕が森へ行ったのは思慮深く生活して人生の本質的な事実とだけ面と向かい合いたかったし、人生の教えることを…確かめたかったし、死ぬときになって自分は生きていなかったなどと思いたくはなかったからだ」と。だから、今回の旅の目的をあえて言うなら、大自然に分け入り思索を重ねることで、生きることの本質を探る、ということになるのだろう。極めて抽象的であり、成果も見出しにくいが、そのような心積もりで出かけるつもりである。

 幸いにして、今は会社も辞めているので、時間があり、お金も(どうにか)あり、体力もある状態だ。こんな時は、人生の中でももうないであろう。だからこそ、無謀と言われようと出ていかなければならないのである。

 長期戦に備えて

 今回の旅は、合計で2年に及ぶ。当初は各地を連続して訪ねることも考えたが、物資の調達や安全面から、結局5大陸別に行くことにした。まずは治安が良く、勝手知ったるオセアニアから入り、次いで北米南米ヨーロッパアジアと周遊する予定だ(アフリカは、情報量の少なさと、治安・疫病・交通手段の問題から断念)。それぞれ3~4ヵ月ほどの旅になろうが、資金が尽きれば旅も終わるのであしからず。

 これほどの長期旅行は初めてなので、準備もいろいろと大変だ。まずは大自然を記録に残すため、デジタル一眼レフカメラ「FinePix S2Pro」と三脚を購入。ついで携帯するパソコンとして「Let's note T1」を手に入れた。その他は従来からの持ち物が主だが、海中撮影用のカメラケースを購入したり、爪切りや予備の電池など、普段持っていかないような小物まで用意する必要があった。ただでさえパッキングが下手なので、相当な重装備となってしまったが、怠けた体力を徐々に回復させながら旅を続ける所存である。

 第1弾となるオセアニア編では、NZをおよそ2ヵ月かけて南下し、いくつかのトレッキング・コースを歩いた後、オーストラリアのタスマニア島に渡り、東海岸を北上、ついでアウトバックを南下する予定だ。旅立ち前に決まっているのは、往復の航空券と、NZ→オーストラリア間のフライト、それに初日の宿とその後6日間のレンタカーのみである。出発前にこれだけ不十分な状態は初めてだが、長期旅行で全て予定が決まっているのでは楽しくないし、男1人、テントも持参するので何とでもなるだろう。まずは楽しい旅になるよう祈りながら旅立つこととしよう。

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