こうしてパジェで3日過ごしたところで、ダルエスサラームへと帰っていく。幸い、従業員がストーンタウンに向かうので同乗させてもらい、この保養地を後にした。
さすがに乗用車は快適で、ダラダラの苦痛が嘘のように楽だ。しかも、この日は晴天に恵まれ、緑が眩しいほどに映えている(ザンジバルに来て、最も良い天気のようだ)。こんな時に移動とは空しいが、列車を予約しているので止むを得ない…
1時間あまり走ってストーンタウンに着いたら、従業員とは別れて港に向かう。が、その前に薬局を見つけたので、さっそくマラリアの予防薬(メフロキン)と治療薬(コテキシン)を購入。実際に使うかどうかは別にして、これで一安心だ。
灼熱の中、汗だくで港まで歩くと、次は高速艇が出るようなので、チケットを購入。出島手続きを済ませ、乗り場に向かう。あいにく出発まで1時間ほどあったので、美しい海を見ながら、日陰に身を寄せて過ごすが、あまりに暑くて溶けそうだ。

ストーンタウンを望む
ともあれ、こうして昼の便に乗り込むと、さすがは高速艇、中は冷房が効いており、快適に過ごすことができる。しかも、走り出したら速く、揺れも少なくて申し分ない。1時間半の船旅もあっという間であった。
ダルエスサラームに戻ると、こちらは雷雨が降った後で、いまだにポツポツと雨が落ちていた。が、とりあえず手持ちの米ドルが底をつきかけていたので、ATMと両替屋を行き来してドルを大量に確保(ツアーなどではドル払いが多いが、この先、いくつかの国ではドルへの両替が難しいらしい)。これで心配の種はなくなったので、後はそのまま歩き、YMCAに部屋を確保した。
翌25日もまずまずの天候であったが、列車は午後3時50分発なので、しばらくはのんびり過ごす。そして、昼食後に出かけようとすると、ちょうど鉄道駅に向かうタクシーが待っていたので、それに便乗。想定外に安く行くことができた。
すると、私は2等の切符だったのに、外国人だからか、1等用の待合室に通される。ここで出発を待っていると、しばらくして、パジェで会った学生が追いついてきた。彼は切符を予約していなかったが、ザンジバルで購入できたので、飛行機で飛んでそのまま駅に来たらしい。変な縁もあるものだ。
やがてチェックインが始まったので、駅構内に入って指定の車両に向かった。私のコンパートメントには、他に若いカップル、2人のおじさん、そしてアメリカ人が1名いる。例の学生とは当然別室だが、彼は寂しいのか、私のところにやって来て、他の人たちと楽しく談笑している。英語はうまくないが、この順応性には脱帽である。
そして、ついに列車が出発すると、沿道ではたくさんの人たちが手を振っていた。特に子供たちが多く、楽しそうに見送っている。地元の子か、客の親戚縁者かはわからないが、かなりの数だ。郊外まで延々と続くので、ちょっとビックリしてしまった。

タンザン鉄道
さて、その後しばらくは何てことのない風景が広がるが、この列車の目玉は、途中でセルース動物保護区(Selous Game Reserve)を通るので、居ながらにしてサファリを楽しめることにある。これぞアフリカの鉄道! 話によると、夕方ぐらいに通過するそうなので、その時を楽しみに待った。
ところが、夕闇が迫ったところで、突然の雷雨に見舞われてしまった。それも半端な雨ではなく、バケツをひっくり返したようなスコールだ。せっかくのトレイン・サファリなのに…仕方なく窓を小さく開けて見ていると、まもなくキリンの群れが闊歩する姿が見えたが、もう暗すぎて良く見えない…しかも、雨は一層激しさを増したため、窓を開けることもままならず、サファリは断念せざるを得なかった。
落胆しながら夕食を取ると、後はやることがないので、例の学生と話をしたりして過ごす。彼のところにも行ってみると、こちらは2人しか客がおらず、随分居心地は良さそうだ。しかし、いざ彼が寝ようとすると、ベッド上にハマダラカを発見。これがマラリアを媒介するのだが、こんなのを見せられたら気が気でない。足早に去るしかなかった。
マラリアは、特にサハラ以南のアフリカで顕著な病気で、放っておくと死に至る感染症だ。特にこの先、マラウィ、モザンビーク(Moçambique)、ジンバブエと、比較的標高の低い亜熱帯地域を通るので、マラリアには細心の注意を払わねばならない。この夜も、できるだけ肌をさらさぬようにして横になるが、車内は蒸し暑くてたまらず、容易には寝付けなかった。
しかし、朝になると標高が上がったようで、随分涼しくなっていた。外も晴れていて、昨日の大雨が嘘のような天候である。そして、列車はそのまま快適に走って、昼過ぎには無事ムベヤ(Mbeya)に到着した。
ここから、私と学生、それに同室だったアメリカ人もマラウィに向かうので、一緒に行動。とりあえずバス・ターミナルに着いたら、マラウィ方面に向かうバスを探す。ところが、客引きのいう値段が異常に高いので文句を言うと、安いミニバスは郊外から出るとのこと。早くも半信半疑だが、ここからはミニバスが出ていないようなので、その者の案内に従った。
そして、案内された場所に出向くと、そこからは確かに国境行のミニバスが出ていた。これで一安心、と思ったところ、その男は先に運賃を支払えという。なるほど、ここで騙そうという魂胆のようだが、乗車前の支払いはできないと拒否。騙されることなく、目的のミニバスに乗り込むことができた(ただ、この辺りは人が多いうえに騒々しく、治安が悪い)。
ミニバスはギュウギュウ詰めになったところで出発し、一気に南下を開始。途中からは随分標高を落とすようになり、マラリアの恐怖が再び高まってくる。やがて、前方にマラウィ湖(Lake Malawi)が見えてくると、国境はもうすぐ。随分遅くなってしまったが、どうにか閉門時間ギリギリに出入国審査を済ませて、南部アフリカの玄関口、マラウィに入ることができた。