今日でもう洛絨牛場とはおさらばなので、夜明け前に起床すると、月明かりの中、央邁勇が美しい姿をさらしていた。これは良い朝焼けが見られそうだと、期待して撮影の準備に入ると、瞬く間に雲が流れてきて、結局朝焼けは見られず仕舞い…まぁ、頂上部分だけわずかに見えたので、それで我慢するとしよう。

頂上だけ見えたが…
さて、これから仙乃日を時計回りに歩き、冲古寺まで進む予定である。チベットの世界では、コルラは聖地巡礼の主要な方法であるが、それに倣って歩もうというわけだ。やはり神の山に来た以上、最後はこうして巡りたいと思っていたので、願ってもない展開となった。
全ての荷物を担いだら、再び牛奶海方面に向けて歩き始める。もう3度目の道なので慣れたもの、急登も着実にこなし、牛奶海の横を通過して登っていく(体力温存のため、五色海には立ち寄らない)。すると、傾斜が緩んだところで、前方からヤクの群れが迫ってきた。ヤク追いに従って、私に向かって歩いてくるものだから結構怖いが、幸い襲われずに済んだ。やれやれ…

ヤクの群れが迫る
気を取り直してなおも登ると、まもなく松多埡口に差しかかり、ここで右折。緩く登ってタルチョ(祈祷旗)を過ぎると、ここからは下りとなり、人の気配がまるでなくなった。そして、見晴らしの良い丘の上に立つと、眼下には八大聖水という池が現れ、その奥には雲海が迫ってきている。徐々に怪しげな雰囲気になってきたが、ここは構わず下っていった。

八大聖水を見下ろす
八大聖水の湖畔近くに降り立つ頃には、すっかり雲と同化してしまい、周囲の景色が見えなくなってしまった。仕方なく黙々と歩いていくと、まもなく小さな小屋を発見(どうやらここで生活を営んでいるらしい)。少々休憩していると、次第に雲が上がってきて、前方には卡斯地獄谷が、右手には仙乃日の西面らしき山が見えてきた。

仙乃日の西面

地獄谷を望む
ところが、ここで突然にわか雨に見舞われてしまった。やむなく道端で雨宿りしていると、どこから現れたのか、チベット族の家族が背後からやって来て、馬にかなりの荷物を乗せて通り過ぎていく。中には随分小さい子もいるが、ちゃんと大人に付いて歩いているから大したものだ。
しばらくして雨が止み、私も再スタートを切って下り始める。この辺りは、左手に地獄谷を見ながらアップダウンをこなしていくが、観光客は皆無だ。やがて小尾根を周り込むと、ここからは見晴らしの良い道となり、天候もだいぶ回復してきたので気持ちが良い。斜面をトラバースしながら着々と歩いていった。

斜面をトラバースしていく
麝虎豹まで進んだところで分岐となり、ここから峠に向けて本格的な登りとなる。気がつけば、先ほど通り過ぎた家族が草地で休んでいて、食事に誘ってくれたが、申し訳ないのでお断り。そのままゆっくりと登り始めた。
この登りは、于さんが「ものすごくきつい」と言っていただけあって楽ではないが、この先の道が見えているせいか、思ったほど辛くはない。マニ塚が点在する中を登っていくと、次第に峠が近づき、ついに鬼門関(4995m)に到達。ここは文字通り狭い関所のようになっていて、風がものすごく強いが、はためくタルチョもまた良いものだ。

鬼門関
そして、ここからは一気に急斜面を下っていく。これをやり過ごすと緩やかな下り道になったが、この辺りでは黄葉が始まっていて、枯れ木とのコントラストなども悪くない。もう少し時期が経てば、きっと格別の景色になるのだろう(その代わり、中国では10月が観光シーズンにあたるので、混雑は避けようもないが)。

黄葉が始まっている
この道を淡々と歩いていくと、しばらくでまた小屋を発見。ここも人が住んでいて驚かされるが、軽く会釈してそのまま進む。そして、林に入ったところで再び駆け下りると、ついに珍珠海の湖畔にやって来た。あいにく仙乃日は雲の中だが、ここまで来ればもう一息だ。
もうだいぶ陽が傾いてきたので、休むことなく下っていくと、しばらくで冲古寺に到着。宿となる冲古寺菅地に出向くと、そこには親切そうな僧侶がいて、手厚くもてなしてくれる(中国語が話せないのに、身振り手振りで説明してくれる)。私が仙乃日をコルラしてきたと説明すると、随分と感心したようで、一層丁重に扱ってくれる(ような気がする)。宿自体はかなりボロいが、心温まる一時であった。