海子溝のトレイルは、ここから老牛園子に向けて緩やかに下ってしまうが、これでは四姑娘山が見えなくなってしまう。もっと良い場所から眺めたいので、さらに稜線に沿って歩き出した。
稜線にはチョルテンが所々に建っていて、踏み跡が続いている。それに従って進むが、左手の木々がなかなか退いてくれない…まだかまだかと歩き、10分少々経ったところで、ようやくその全貌が姿を現した。これぞ絵になる光景! 写真で何度か見た景色ではあるが、これには感動せずにいられなかった。

四姑娘山の展望
周りに誰もいないので、1人でデレデレ見惚れていると、ふと足下が気になった。何やら白いが、何だろう…と注視すると、なんとエーデルワイスの仲間が咲き誇っているではないか。それも、良く見ると辺り一面、足の踏み場に困るほどだ。
この周辺は高山植物が豊富なことでも有名だが、もう時期は過ぎているので、まさかこんなにエーデルワイスが見られるとは思っていなかった。さすがに終わりかけではあるものの、思いがけぬ花の楽園も加わって、感動は倍加したのであった。

エーデルワイスが咲き誇る
雪をいただく四姑娘山の峰々にエーデルワイス――こんな贅沢な景色を見せられては、ここから老牛園子に向かって下る気にはならない。こうなったらもっと展望を楽しもうと、この先も行ける所まで稜線に沿って歩くことにした。

美しい主峰・四姑娘山
ここから踏み跡が一気に怪しくなってきたが、構わず先に進む。すると、まもなくヤギの群れに遭遇。ヤギ飼いのチベタンが追い立てているが、私も加わったことで混乱し、右往左往しながら登っている。何だか申し訳ないが、彼らがまごついている間に追い抜いてしまい、そのまま登り続けた。
ほどなくして道は急坂に差しかかり、いったん稜線の脇を登るようになったため、展望が効かない中を歩く羽目になる。一山越えたところで再び四姑娘山の雄姿が見えてきたが、先ほどとは見える角度が変わり、より近くに感じられるようになった。対岸には五色山(4478m)、そして深く抉られた長坪溝も丸見えになり、飽きない展開が続く。

長坪溝のパノラマ
さらに登ると、今度は不意に牧草地に入り、ヤギやヤクの群れがたむろするエリアに迷い込んでしまった。刺激しないようにそっと歩き、ここは無事通過。ここからもう一山登れば、いよいよ展望が良くなり、周囲の眺望が一気に開けた。五色山は近くに迫り、四姑娘山の南壁も立ちはだかるようになる。ここも素晴らしいところなので、じっくりと休んで展望を満喫した。

五色山

四姑娘山の南壁が迫る
ここから一下りすると、やや平坦な場所に出るが、大姑娘山まではまだ距離があるし、これ以上歩いても無駄なように思えてきた。と、ここで左手の長坪溝に下りる道を発見。もちろん地図には書かれていないが、きっと昔から使われているのだろう。とりあえず中段の小屋まで道が続いているようなので、思い切って下りてみることにした。
怪しげな踏み跡を頼りに下ると、意外にあっさりと小屋に到達し、そこからも道はずっと続いている。ほぼまっすぐ下っているので、少々注意しながら高度を下げていくが、それにつれて四姑娘山の姿が変わってくるのがまた良い(基本的に森歩きなので、時々しか見えないが)。
こうして1時間あまりで長坪溝に下り立つと、稜線からの眺めとはだいぶ異なっていたが、これはこれで美しい眺めである。舗装路に沿って少々歩き、橋の近くからこの絶景を眺めさせてもらった。

長坪溝からの四姑娘山
すると、橋のたもとにあった監視小屋から人が出てきて、チケットを見せろとか何とか言ってきた。まずい…ここまで無料で入ってしまったので、そんなものは持っていないのだ。そこでやむなく、意味がわからないとジェスチャーで白を切ると、結局、向こうは呆れて帰っていった。危なかったが、これで一安心だ。
こうなればもう、後は帰るだけなので、舗装路をだらだらと歩いていく。するとここで、チベット族の若者を乗せた車が通りかかり、一緒に乗っていけと言い出した。まだかなり距離があるので、これはラッキーとばかりに乗せてもらい、一気に日隆に到着。最後にチップを請求されたが、まぁ良いだろうと少々渡して別れた。
夕方になると、バーに再び中山さんがやって来た。彼は今日、双橋溝を観光してきて、明日からはガイドとともに理県へ縦走するのだという。私としては、今日のトレッキングで所期の目的を達したが、明日も天気が良いようなら、双橋溝に立ち寄るのも良いと思う。そして、可能なら稲城亜丁で再会しようと約束し、ここでしばしのお別れとなった。