トンキン・バレーのトレッキングはこれからが本番なので、朝食を済ませたらさっさと出発する。しばらくは昨日同様の沢沿いの道が続くが、まもなく沢から離れ、右手にトライデント・レンジ(Trident Range)の山々、左にマキャリブ山(Mt Maccarib)を見ながらマキャリブ・パス(Maccarib Pass)への登りとなる。峠には意外とあっさり着いてしまうが、正面の視界が開け、行く手の山々が見えてきた。

マキャリブ山を見ながら登る
ここで休むことなく下っていくと、やがてマキャリブ・クリーク(Maccarib Creek)が現れ、それに沿って歩くようになった。次第にぬかるんだ湿地帯が多くなるが、要所要所にちゃんと木道が架けられているので、想像以上に楽だ。そして、眼前にはランパート(The Ramparts)の姿も見えるようになった。
2時間ほどでトンキン・バレーに出ると、正面にランパートが屏風のように立ちふさがっている。このランパートの景観こそトンキンの魅力でありハイライト。緩やかに下ってアメジスト・レイク(Amethyst Lakes)に出たら、湖岸に沿って歩く。大岩壁はいよいよ迫り、屹立した姿が美しい。

ランパートの大岩壁

北側の山並み
湖畔近くのキャンプ場に着いたら、湿地の中を湖畔まで歩き、湖とランパートの眺めを心ゆくまで楽しんだ。

アメジスト・レイク湖畔からのランパート
風があったのであまり意識していなかったが、ここはロッキーの中でも特に蚊の多いエリア。じっとしていると、どんどん集まってきて耐え難い状況になってしまう。ガイドブックにも記述があるし、例のレンジャーにも注意されていた。「ノブヤ、トンキンの蚊はものすごく多いぞ、半端じゃないぞ」と。
しかし、それでものすごい大群を想像したのか、思ったほど多くない、という印象の方が強かった。確かに蚊は多いけれど、悩まされるほどではない。これならアシニボイン近くのオグ・レイクの方が多かったし、アラスカはこんなものではないだろう。とにかく凄いものを考えていたので、これは意外であった(今年は乾き過ぎているのかな?)。
湖畔を離れたら、ランパートや湖から遠ざかり、緩やかに登っていく。全体の風景は一層俯瞰できるようになり、ランパートの大きさが良くわかる。やがて本日の宿泊地、Clitheroe Campgroundへの分岐が現れたので曲がると、少し下ったところにキャンプ場があった。まだ昼過ぎだったが、余裕の到着だ。
テントを立てたらしばらくのんびり過ごすが、夕方、食事の支度をする頃には、すっかり蚊が多くなり、食べるのも億劫なほどになった。さすがは蚊の巣窟…なんとか食事を終えてテントに逃げ込むと、テントの網目を蚊の群れが突付いていて気持ち悪い。それでも想像していたよりは少なく、蚊取り線香は使わずに済んだが。
翌日は曇りがちで、ランパートも隠れ気味であったが、まずは朝の散歩でサプライズ・ポイント(Surprise Point)に向けて下ってみる。昨日とはまた違った角度でランパートが望めるが、いかんせん天気が悪く、奥のエレミテ・バレー(Eremite Valley)やアングル・ピーク(Angle Peak:2909m)などの眺めは芳しくない。結局、キャンプ場まで下り立ったところで断念し、おずおずと引き返していった。

湖南端からのランパート
元のキャンプ場に戻ったら、遅めの朝食を取り、帰り支度を整える。すっかり人がいなくなったところで帰路につくが、帰りは別の道をたどり、アストリア川(Astoria River)沿いに下っていく(ここまで来ると、その方が近い)。
少し登ると分岐となり、右に入ってオールドホーン・マウンテン(Oldhorn Mountain:2986m)の斜面を歩くようになる。振り返ればランパートが美しい姿を見せており、足もとの花との眺めが印象的だ。

ランパートを振り返り見る
別のキャンプ場を過ぎ、広々としたメドウを抜けると、ここで突然つづら折の急下降となった。登りは辛そうだが、下りなら特段大変ではない。ここをこなすと川沿いの平坦な道となり、展望もほとんどきかなくなった。休憩中の馬の列を追い抜き、川を渡って淡々と歩くと、ついにキャベル・レイク(Cavell Lake)が登場。エディス・キャベル山が霞んでいるのは残念だが、これで縦走も終わりとなった。

キャベル・レイクより
さて、歩き終えたのは良いものの、車は別の場所に置きっ放しなので、どうにかして戻らなければいけない。とても歩けるような距離ではないから、考えられる選択肢は一つ…ヒッチハイクだ。
近くのCavell Hostelまで歩き、そこでヒッチハイクを試みようとすると、同じように歩き終えた感じのカップルが現れた。女性はどこかに行ってしまったが、男性はこちらに向かってきて「君、キャンプ場にいただろう。何しているの?」と話しかけてきた(東洋人1人では目立つのか…)。
正直にこちらの事情を話すと、女性が駐車場に車を取りにいっているところだから乗っていかない?と誘ってくれた。これは大助かりなので、お言葉に甘えて駐車場に送ってもらう。何だか申し訳ないほどの情けだったが、これで無事ジャスパーに戻ることができた。