ヨーホーの中で最も楽しみにしていたのがレイク・オハラだが、ここは入山制限をしているため、事前に予約をしていないと難しい。シャトルバスやキャンプの予約は3ヶ月前から始まるが、シーズン中は受付と同時に満員になるという。実際、今回の旅でもアメリカ渡航後すぐに電話をしてみたものの、あえなく玉砕したのであった。
しかし、まだ奥の手はある。1つは、現地申込み枠が若干設けられているので、これを狙って前日に予約を入れる方法。もう1つはシャトルバス発着場に向かい、当日キャンセルを当てにする方法だ。とにかく早く行ける手を探ろうと、まずは後者を試み、駄目なら前者に挑戦することにした。
さっそく車に乗ってバスの発着場に赴くと、続々とハイカーが集まっていた。バスが現れると、彼らは次々に乗り込んでいく。私と同じようにキャンセル待ちを狙う人たちもいたが、結局8時の便に空きはなく、残念ながら乗せてもらえない。第1の作戦は失敗に終わった。
続いて前日予約を狙おうと、近くのフィールド(Field)という街に向かい、ビジターセンターを訪ねる。すると、周囲に人の気配はなく、嫌な予感…もう終わってしまったのかと心配になったが、中にいたレンジャーに尋ねてみると、明日の分の空きはまだあるというのだ。なんてラッキーな! この予約は、夜明け前から並んでも取れないことがあると聞いていたので、あまり期待していなかったのだが…SARSの影響か何か知らないが、とにかくこの上ない出来事に、早くも気分は最高潮に達した。
こうして幸運にもオハラ行が確定したところで、満を持してエメラルド・レイクに向かう。同乗していた女性には道草食わせて申し訳なかったが、安全運転で(途中、分岐がわかりにくくて道を間違えたものの)湖畔にたどり着いた。

エメラルド・レイク
まだ9時前とあって、驚くほど人がいなくて静かだ。今日はまず初級者向けのエメラルド・ベイスン(Emerald Basin)を訪れた後、中級者向けのコースを歩いてヨーホー・パス(Yoho Pass)からバージェス・パス(Burgess Pass)へと周回しようと思っていた。無理強いするつもりはないので、同乗者にもこの予定を伝えて、とりあえずエメラルド・ベイスンまで行ってみないかと誘ってみる。先方は少し驚いたようだが、了承を得たので、ひとまずは一緒に行動することとなった。
しばらくは湖の西岸に沿って、平坦な道を歩いていく。美しい湖を眺めながら楽々進むと、北側に出たところで分岐となり、ここを左に、その先をさらに左に入る。ここから森の中を緩やかに登るが、先日同じコースを訪れた人が、途中でイエロー・レディース・スリッパー(Yellow Lady's Slipper)というアツモリソウの仲間を見たというので、2人で探しながら登っていった。
しかし、肝心の花は一向に見当たらない。もう枯れてしまったのだろうか…道は1箇所だけ傾斜のきついところがあったが、後は緩やかな登り道が続き、やがて景色が開けて、前方にプレジデント・レンジの山々が姿を現した。トレイルはその岩壁の手前で終わっているが、この谷間にはまだ人がほとんどおらず、存分にロッキーの雰囲気を味わうことができる。ここで大休止とし、しばらくのんびりと過ごした。

プレジデント・レンジが迫ってくる

エメラルド・ベイスンの谷奥
帰りは来た道を戻る。改めて花を探してみるが、やはり見つからない…この時間になると登ってくる家族連れが多くなり、徐々に混み出していた。それを抜けるように下りきったら、私は上級者コースに歩を進めるため、ここでしばしのお別れとなった。
分岐を左に進み、ショートカット・コースを歩いていくと、まもなくエメラルド・ベイスンから流れてきた沢にぶつかるが、橋が見当たらない…ここは古い地図に載っていたものの、現在では使われていないようなので、泣く泣く湖畔まで引き返し、少し先を左折して正規のルートを進んでいった。
しばらくは平原を黙々と歩くが、やがてジグザグの登りが始まる。ミッシェル・ピーク(Michael Peak:2696m)の斜面をトラバースし、再び急登をこなしていくが、今日はいつも以上の猛暑で、予想以上に体力の消耗が激しい。油断して水をあまり持ってこなかったため、既に残りわずかとなってしまった。

ワプタ・マウンテン
途中休憩を挟みながらなおも登っていくと、鞍部近くにきてようやく林の中に逃げ込み、ヨーホー・パスに到達。ここからヨーホー・レイク(Yoho Lake)まではわずかなので、ちょっと寄り道してみるが、ここも山上湖らしい落ち着いた風情で、のんびりするには最適な場所であった。

ヨーホー・レイク
しかし、今日の行程はまだ先が長いので、少々休んだら峠に戻り、ここから左手のワプタ・マウンテン(Wapta Mountain:2778m)の脇をトラバースしながら登っていく。右手にはエメラルド・レイクを眼下に望め、振り返ればミッシェル・ピークとエメラルド氷河(Emerald Glacier)が全貌を現している。実に快適な景観だが、もう水が底をついているので楽ではない。持ちこたえられるだろうか…

眼下にエメラルド・レイク

ミッシェル・ピークと氷河

エメラルド・ベイスンを遠望
やがてトレイルは、先のメドウに向けて下り始める。振り返ればワプタ・マウンテンが望めるが、まもなく林の中に入り、フィールド山(Mt Field:2635m)の斜面を周ったところでいきなり南側の景色が開けた。谷へとすぱっと切れ落ちているが、ここからはフィールドの街はもちろん、ステファン山(Mt Stephen:3199m)などの山々が見渡せる。足もとにはたくさんの花が咲いており、まるで天国に来たかのようだ。

ステファン山

斜面には花も多い

ワプタ・マウンテンを振り返り見る
ここをゆっくり進むと、しばらくでバージャス・パスに導かれる。分岐を右に入れば再びエメラルド・レイク側に引き戻され、ここからバージェス山(Mt Burgess:2599m)の脇を一気に下っていく。森に入ると視界はまったくきかなくなり、至極単調な下りだ。結構長く辛いが、脚力に物を言わせて駆けるように急下降。すると途中でルームメートのおじさん(イギリス人)とすれ違うが、ペースがあまりに違うので先を行かせてもらった。下り終えると湖畔近くを歩くようになるが、この時間の湖の色彩は特に素晴らしく、美しい限りであった。

改めてエメラルド・レイク

バージェス山
やっとのこと夕暮れ前に戻ることができたが、もう喉はカラカラだ。女性の方は終日湖でのんびりしていたとのこと。それなりに有意義に過ごしたようで何よりだが、飲み物が欲しい…しかし、湖畔の店はもう閉まってしまったので、急ぎフィールドに走り、何とかこの危機を脱したのであった(彼女はこの街がとても気に入ったらしく、私が喉の渇きを癒している間に街の散策に出ていた)。
ピンチを防いだら帰途につくが、途中のスパイラル・トンネル(Spiral Tunnels:鉄道が8の字を描いて走っている)では、せっかくなので寄り道し、通過する列車の様子を見守る。そして、長い長い1日であったが、無事宿に戻ることができた。