ツェルマットへの道中は、マッタータール(Mattertal)を遡る、本来なら風光明媚な区間のはずだが、この日はあいにくの雨。フィスプを出るとまもなく霧の中を進むようになり、ほぼ何も見えない…雨は弱まる気配すらなく、延々と降り続いた。
こうして、昼過ぎにはツェルマットに到着したが、ここもグリンデルワルトに負けず劣らず日本人観光客の多いところで、降り立ったとたん数多くの日本人を目にしてしまった。さっそく観光案内所で天気予報をチェックするが、この先もしばらく芳しくない模様だ。落胆しつつメイン・ストリートを歩いてみると、数多くの観光客、しかも多くは中高年日本人ツアー客という構成にさらにガッカリ…雨が再び強まってきたのでミニバスに乗ることにして、予約しておいたYHAに向かった。
ここのYHAは改装されてまもないとあって、さすがに綺麗で快適そうな作りになっている。チェックインしてまもなく、雨が本降りになったので待機。夕方になって少し弱まったが、相変わらず天気の回復する見込みはない。これではいかんともし難いので、宿で夕食を取ったら大人しく過ごした。
翌9日になると、雨こそ止んだものの、依然分厚い雲に覆われてアルプスの山々を望むことはできない。同室のおじさん(イギリス人)はハイキングに出かけていったが、こんな天気では歩く気がしないので、とりあえず街に下りて情報収集。日本語観光案内所に出向いて話を聞いたりしていると、徐々に青空が覗いて陽が差すようになってきた。まだ山々の姿はなかったが、これなら午後には見えてくれるかも…と淡い期待を胸に抱いたのであった。
昼下がりになるといよいよ回復基調が鮮明になり、マッターホルンはともかく、周囲の山々は徐々に姿を見せるようになってきた。これならハイキングをする価値がある…が、この時間からでは遠出は難しいので、ひとまず手近なところで、ツェルマット郊外を散策することにした。
宿を出てヴィンケルマッテン(Winkelmatten)まで少し登ると、雲を吐き出すマッターホルンの姿が良く見える。夕方までに全貌が露わになることを祈りつつ左折し、ゴルナーグラート登山鉄道(GGB:Gornergrat-Monte Rosa-Bahnen)の陸橋に向けて歩いていく。この橋はなかなか絵になるところで、高い鉄橋とフィンデルバッハ(Findelbach)の滝が絵葉書のような世界を作っている。
ここでしばらく休憩とし、列車が通るのを待っていると、いつの間にか滝の水量が極端に少なくなっているではないか! 聞くところによると、この滝は午後4時半以降水量が減らされるらしく、観光向けの人工的なものらしい…これには正直ガッカリさせられてしまった(ただ、後日見たら5時以降でもちゃんと滝は流れていた。どういうこと?)。

ゴルナーグラート登山鉄道とフィンデルバッハ

雲吐くマッターホルン

眼下にツェルマットが見える
気を取り直して先に進むと、まもなく線路を渡り、鉄道沿いの樹林帯の道になる。この辺り、展望はなくなってしまうが、ちょうど下山してきた家族連れなどで賑やかだ。
しばらく平坦に歩いていくと、やがて樹林が切れて、ツェルマットの街並みが眼下に見えるようになってきた。この先で左に折れて下っていくと、やがて街中に入り、視界もさらに広がってくる。マッターホルンがまだ見えないのは残念だが、なかなかの景観である。そして再び線路を横切って中心街へ下り立ち、このお気楽散歩を終えたのであった。
少々の買い物をして宿に戻ると、徐々にマッターホルンが姿を見せるようになっていた。相変わらず東壁からは雲が吐き出されているが、随分と雲が減ってきた気がする。これなら夕暮れまでに全貌を見せてくれるに違いない…そう信じて、夕焼けの撮影に出かけることにした。
宿から再び歩いてヴィンケルマッテンに登ると、確かに雲は相当減ってきて、美しい稜線が見えてきている。が、ここからが難しいところで、雲は消えそうでなかなか消えてくれない。もうすぐ陽が暮れてしまう、頼むから早く消えてくれ…と願うと、少しずつ、本当に少しずつだが雲が消えていく。こうなったら時間との戦い。雲が消えるのが早いか、陽が暮れるのが早いかだ。
しばらくヤキモキしていると、いつの間にか日本人の中高年ご夫妻がやって来て、のんびりと色づきかけたマッターホルンを眺めている。少し話をしていると、今度はスネガ(Sunnegga)から下りてきたという夫婦が現れた。聞けばもう5日滞在しているが、今までマッターホルンは見えなかったという。そうこうするうちに夕焼けが近づき、北壁が赤らみ始めた。まだ雲は若干残っているが、とりあえず全貌を眺めることができて一安心。後は色あせるまで美峰を眺めた。

マッターホルンの夕焼け
頂きの灯りが消えたところで帰ろうとすると、目の前の店から出てきた欧米人が、反対側を指差して騒ぎ始めた。何かと思って振り返ると、今度はスイス国内最高峰となるドム(Dom:4545m)が燃えているではないか。この色はマッターホルン以上! 慌てて機材を反転させて撮影し、しばし自然の芸術に酔った。

ドムの夕焼け
こうして、滞在2日目にしてひとまずマッターホルンを眺めることができた。まだ満足のいくものではないが、これならきっと、明日には文句ない展開になるだろう…と信じたいところだ。