翌早朝、起きられるか心配だったが、無事5時過ぎに起床し、手早く支度を済ませて駅に向かう。列車の前には既に2人が待機していて、遅刻者はいなかった。こうして1両編成の始発列車に乗り込み、5時54分にグリンデルワルトを離れるとまもなく、シルバーホルン(Silberhorn)越しに満月が現れた。何ということ…駅に向かう途中、ユングフラウの辺りが妙に明るいなと思っていたが、そういうことだったのか! しかし列車は一瞬で通り過ぎ、撮影する暇など与えてくれなかった。
乗換駅のツヴァイリュチーネン(Zweilütschinen)に到着すると、次のラウターブルンネン行まで30分ほどあるのでちょっと寄り道し、川の合流点に歩いていってみる。ラウターブルンネンからはちょうどロープウェイの起点、シュテッヒェルベルク(Stechelberg)に向かうバスが出るところだったので、首尾よく乗車。大岩壁に囲まれた谷底を進んでいき、ロープウェイの始発に乗り込むことができた。
始発だけあって観光客は少なく、代わりに店で働く人などが「通勤」に利用していた。さっそく滝を横目に見ながら上空に浮き上がり、ギンメルワルト(Gimmelwald)、ミューレン、ビルク(Birg)と都度乗り換えてシルトホルンに向かう。乗り換えは実にスムーズで、なんと8時前に山頂に到達してしまった。
山頂に上がると雲一つない快晴で、眼前にはブライトホルン(Breithorn:3782m)、ブリュムリスアルプ(Blümlisalp:3664m)などが迫り、もちろんアイガー、メンヒ、ユングフラウの姿もある(が、あまりに早過ぎて、まだ光が差していないほどだ)。ここは映画『女王陛下の007』に登場したほど有名な展望台。まさに360°の展望が広がり、文句のつけようのない絶景である。幸い、まだ観光客はほとんどいないので、ここで思う存分撮影タイムに突入した。

ブライトホルン方面

アイガー、メンヒ、ユングフラウの展望

グリンデルワルト方面は霞がかっていた

ロープウェイ越しの三山
朝一番で来ただけあって、遮るもののない眺望になっている。順光のブライトホルンはもちろん美しいが、逆光となるグリンデルワルト方面、アイガー、メンヒ、ユングフラウなども陰影がつき、多少霞がかって神秘的ですらある。早起きした甲斐があった、と思わずにはいられなかった。
ロープウェイは30分ごとにやってくるが、9時頃からさすがに混み始めてきた。時間が経つにつれて三山に光が当たり出し、その変化がまた楽しい(さすがにもう、靄がかった光景は見られない)。そして、一通り見終えたところで回転レストラン、ピッツ・グロリア(Piz Gloria)に入り、周囲の展望を楽しみながらココアを飲む。ここで一周の時を過ごしたら、展望台の先まで行ってモンブラン(Mont Blanc)を遠望し、10時半の便で山頂に別れを告げたのであった。
2人はミューレンまで下ってしまうが、私は1つ下のビルクで降りるのでお別れし、ここからは自分の足で下っていく。この辺りにはまだ残雪が見られたが無事通過し、幅広い道を下っていくと、ほどなくしてアイガー、メンヒ、ユングフラウの姿が再び見えるようになってきた。だいぶ光が当たるようになったものだと感心しつつ、淡々と歩いていく。
すると、まもなく分岐が登場。すぐ横のシルトホルン小屋(Schilthornhütte)を通過し、さらに先へと進んでいく。ところが、この辺りは雪だらけで道が不明瞭となり、足跡を頼りに進むものの、段々と道がわからなくなってきた。不安が増幅する中を歩むと、急坂が現れて眼下に道を確認することができた。これで一安心、その後は眼下のトレイルへ下り、快調に歩を進めていく。そして、ムットレルンホルン(Muttlerenhorn)を巻くように下ると突然視界が開け、アイガー、メンヒ、ユングフラウなどの大展望、そして足元にアルメントフーベル(Allmendhubel)が見えるようになってきた。ここは絶好の休憩場所なので、腰を下ろしてこの絶景を堪能した。

三山再登場

アルメントフーベルを見下ろす絶景
ここからは急坂を下り(登っている人は相当辛そう…)、アルメントフーベルの手前で左に折れて、今度はグリュッチュアルプ(Grütschalp)に向けて展望の良いコースを歩くことにする。ここはアクセスしやすく、人気のコースだけあってかなりの賑わいだが、それ以上に三山の眺めが素晴らしく、飽きることがない(強いて難点を挙げれば、三山が右後ろになるため、歩きながら振り返らねばならないことか)。景色の良いところでは皆思い思いに休み、この絶景を楽しんでいる。所々で花も多く、アルペンローゼなどが咲き誇っている。道も緩やかで、本当に快適なコースだ。

三山の美しい眺め

花も多く見られる

ヴェンゲン方面を望む
この辺りは開けた牧草地になっているので、三山の展望を遮るものはなく、極上の展望が見放題という贅沢である。ここをのんびり歩いていくと、やがて下りにかかり、右手にはヴェンゲンの街が見えるようになってきた。すると樹林帯が多くなり、展望がきかなくなってくる。本格的な下りに入ると森歩きの風情となり、展望の広がることのないまま、最後はあっさりとグリュッチュアルプに到着した。
さて、これで今日最低限歩こうと思っていた箇所をクリアしたが、まだ天気が崩れる気配はない(雲は多少出てきたが…)ので、このまま奥の谷へと歩くことにした(この辺は日本のガイドブックであまり紹介されていない)。

ソオス谷
再び樹林帯に入り、徐々に高度を上げながら尾根を巻いていく。さすがにすれ違う人の数は減ったが、思っていたよりは人が多い印象だ。登りが終わるとソオス谷(Soustal)に向かっての下りになり、まもなく集落が見えるようになってきた。ここを抜けると広々としたソオス谷が目の前に広がり、家族連れなどが思い思いに過ごしている。意外に人が多くて驚いたが、ここの沢を渡ったら急登で、再び高度を上げていく。気がつけば先ほどの谷底がはるか下に見え、ずいぶんと登っていた。
やっとの思いで急坂をこなすと平坦な道となり、樹林帯の斜面を歩くようになる。やがて所々で視界が開けるようになり、右手にアイガー、メンヒ、ユングフラウの絶景が再度登場。雲が随分増えたものの、風格ある景観を見せてくれている。やがて道は方角を変え、谷奥へと登りつめるようになった。そして、沢を渡ってズルス(Suls)に到着。ここまで来れば、目指すロープホルンヒュッテ(Lobhornhütte)はもうすぐだ。
ガイドブックによれば、ロープホルンヒュッテは三山を眺めるのに絶好の場所、しかも訪れる人が少ないとのことで、是非行ってみたいと思っていたところだ。まずは牛舎から左に進路を取ってズルスゼー(Sulssee)へ。この湖自体はそれほど大したことないが、休憩するには適当なところで、大勢の家族連れなどが休んでいる。私もここで少し休んだら、いよいよヒュッテに足を向けた。

ズルスゼー
ズルスゼーからヒュッテまではやや不明瞭な道だが、踏み跡をたどれば問題ない。手前の丘が展望を邪魔しているので、早く三山の絶景を眺めたいと、思わず足が急いでしまう。すると、丘の上に立ったところで視界が開け、前方に三山の雄姿、そしてヒュッテの姿が見えてきた。おぉ…これぞ三山という眺め。まだ雲が多いものの、筆舌し難いほどの光景だ。右手には奇峰、ロープへルナー(Lobhörner:2566m)も聳え、ここは秘境かと思ってしまう。ここで宿泊し、朝晩の風景を眺められたらどんなに良いことか…そんなことを思いながら、しばしの時を過ごした。

ロープホルンヒュッテと三山

奇峰・ロープへルナー
30分ほどボーッと過ごすが、あまり悠長に構えていると終電に乗り遅れるので泣く泣く撤退し、元の道に戻って一路ズルワルト(Sulwald)へと下っていく。展望は最初こそ良かったものの、次第に森が邪魔して見えなくなってしまった…が、終了間際になって再び展望が広がり、ラウターブルンネンの谷ともどもの景観を楽しみ、6時頃、ズルワルトに到着となった。

ズルワルトより
ズルワルトからは小さなロープウェイでイーゼンフルー(Isenfluh)まで降りるが、これはたかだか4人ほどしか座れない代物。私のような独り者が座れるはずもなく、狭い場所に耐えて無事下山し、それからは最終バスでラウターブルンネンに向かう。こうして電車でグリンデルワルトに戻ったのは8時過ぎだったが、幸いにも夕陽が見られそうなので、そのままの勢いで鑑賞することにした。
夕陽はアイガー北壁がベスト、と思っていたが、今朝一緒だった旅行会社の人がヴェッターホルンも良いと言っていたので、アイガーとヴェッターホルンを望む展望地を探して彷徨う。すると、先日ボルトから下ってきたところがちょうど展望に適していたので、ここで陣取って夕暮れを待った。
雲は減り始めていたが、まだ微妙に流れている状態だったため、ヴェッターホルンには雲がかかり気味。一方、アイガーには雲がないものの、地平線の雲が邪魔して思うように光が当たらない…回復を願うが、なかなか思うようにはならず、結局どちらも少し赤らんだ程度で終わってしまった。今日がラスト・チャンスと思っていたので少々残念だったが、ともあれ早朝5時から夕暮れの9時頃まで1日フル稼働したので、結構満足であった。

アイガーの夕焼け

同じくヴェッターホルン