ラパスの次は、チリのアリカ(Arica)に向かう。本当は直接、国境を越えてすぐのラウカ国立公園(Parque Nacional Lauca)に行きたいのだが、ボリビア側からはツアーはないし、途中でバスを降りることはできても、乗せてもらうのは難しいらしいので、まずは起点となる街に行くしかない。
アリカ行は朝に出るので、早起きしてバスターミナルに出向くと、幸いまだ空席があった。バスは7時に出発したが、エル・アルトでさらに乗り込んできて、たちまち満員になった。私の隣りもエル・アルトからの乗客だが、なんと、インディヘナの若い女の子だ。
バスはだだっ広い高原を走っていくが、途中で工事中のため、ガタガタの悪路を進むようになる。そんな中で出入国カードを配られ、悪戦苦闘しながら書き終えると、隣りの子がペンを貸してくれと言ってきた。彼女は初めて国外に出るのか、書類の書き方がわからないらしく、その都度こちらに聞いてくる。ちらっと見えてしまったが、私よりもずっと若い22歳で、既に結婚しているらしい。

サハマ山
やがてボリビアの最高峰、サハマ山(Volcán Sajama:6542m)が右手に見えてくると、ボリビアの出国手続きとなる。そして、峠を越えると緩やかに下り、いくつもの高峰が見えるようになってきた。チュンガラ湖(Lago Chungará)で入国手続きを済ませる(ただしチリの入国は厳しく、荷物を全てチェックされる)が、この周辺の景色は素晴らしいの一言で、空気が薄いのを忘れてしまいそうだ。実のところ、大したことなかったら通過しようと思っていたが、これはもう一度舞い戻らねばならない。

チュンガラ湖

ジュタ渓谷
それから、バスは止まることなく走り続ける。4500m以上の高地から海辺まで一気に下るので、大変な落差だが、途中のジュタ渓谷(Valle de Lluta)など、変化に富んだ景観が次々に広がって飽きることがない。やがて海が見えるようになると、曇天で冴えないものだと思っていたが、隣りの彼女は食い入るように眺めている。きっと初めて海を見るのだろう。
こうしてアリカに着いたら、タクシーでResidencial Aricaにチェックイン。続いて街に出て、アリカ行のツアーを探す。思いのほかツアー会社が少なく驚いたが、無事明日出発のツアーを確保することができた(スペイン語だけの対応だったが、何とかなった)。
そして翌日、迎えに来たミニバンに乗り込み、改めてラウカを目指す。この日は霧が立ち込めていて、あまり優れぬ天候だが、果たして大丈夫だろうか。
手始めに地上絵(Petroglifos)を遠望したら、ラウカを目指し、東に走っていく。ジュタ渓谷を見下ろすまで上ると、カンデラブロ(Candelabro)というサボテンの木が点々とする荒涼とした世界となり、ビスカチャ(Viscacha)やビクーニャ(Vicuña)などの動物も見られるようになった。ツアーはスペイン語のみの解説だが、幸い同行のチリ人が親切で、逐一英語に直してくれるし、いろいろ気遣ってくれるので助かった。

カンデラブロ

ビスカチャ

ビクーニャ
思いのほか和気藹々と進み、所々で停車して、写真を撮ったりしながらラウカに近づく。次第に晴れ間が広がる中、途中の小集落で休憩となるが、ここではなぜかリャマとアルパカが迫ってきて大変であった(きっと観光客になつくよう躾けているのだろう)。

谷間の風景

ねだるアルパカとリャマ
さらに進むと、それまでの砂漠地帯から、草や高山植物の生い茂る景色に変わってきた。美しい山々も見られるようになり、動物の数も多くなってくる。まさに桃源郷のような心地で眺めていると、やがて車は道を外れて、パリナコタ(Parinacota)に入っていった。ここでもう標高4392mもあるが、小さくて可愛らしい集落だ。風景も相変わらず美しく、コニーデ型の山並みが素晴らしい。

パリナコタ手前の池

パリナコタの教会
そして、ここでゆっくりしたら、いよいよチュンガラ湖に迫る。パリナコタ山(Volcán Parinacota:6350m)とポメラペ山(Volcán Pomerape:6240m)はいよいよ大きくなり、神秘的な湖面も見えてくる。湖にはフラミンゴが群れ、草地にはビクーニャが遊んでいる。何て素晴らしいところだろう。
車は湖畔近くで止まり、ここで休憩となった。検問所近くまで行くのかと思っていたが、まぁ良い。ここからでもチュンガラ湖とパリナコタ山の眺めを堪能できるので、周囲を歩いて、この絶景を満喫した。ただ、ここはもう4517mの高地。私は高度順応しているから問題ないものの、海抜0mから上がってきたら、この後高山病にかかるのはまず間違いないだろう。

パリナコタ山とチュンガラ湖

高峰がひしめく
案の定、この休憩の間も、他の人たちはまもなく動けなくなり、いかにも帰りたがっている。私はいつまでも居たかったが、ほどなく下山指令がかかったので車に戻り、この桃源郷を後にせざるを得なかった。
車は少し下って、プトゥレ(Putre)で昼食休憩となったが、この頃にはもう皆頭痛をきたしていて、すっかり元気がなくなっている。おまけにサッカーの試合が放送されていて、チリ代表が負けているものだから、チリ人は余計機嫌が悪い。別のグループでは、高山病にかかって途中で断念した人もいて、なんだか可愛そうだ。どうしてこんな無茶なツアーしかないのだろう。

ポメラペ山とパリナコタ山

プトゥレを望む
ともあれ、その後はひたすら下り、夕方前にアリカに戻った。今回、チリはここだけで、後日また中南部を訪れようと思っているが、とても親切な人が多いし、洗練され、平和な感じがする。ボリビアがとても南米らしい国なら、チリは「南米らしくない国」。あまりゴチャゴチャした様子がなく、これはこれで好印象であった(これが隣り合った国同士なのだから、国境を越えた時の変化はたまらない)。
ただ、盗難の後遺症で人を信じることができず、街中で声をかけられても相手にしなかったのは、ちょっと失礼だったかもしれない。この時も、通りすがりのヨーロッパ系の女の子(中学生ぐらい)が声をかけてきたが、無下に断ったら、悔しそうな表現をしていた。「何かお困りですか?…なによ、せっかく親切にしたのに!」だったのか「お兄さん遊ばない?…くそ、騙せなかったか」なのか、謎のままである。