ほとんど寝付けぬまま朝5時を迎えると、御来光を期待して早起きした人々の歩く音が聞こえてきた。このままテントの中にいても仕方ないので、身震いしながら起きてみると、谷間には雲海が出現し、マウント・クックも頂上部分がわずかに見えていた。

夜明け前のクック
やがてカンタベリー平野方面が徐々に赤みを増し、幻想的な光景が広がり始めた。クックには西海岸から流れる雲がかかっていたが、頂上部分は何とか見渡せる(下からでは雲が邪魔して何も見えないだろう)。そして、セフトン山をはじめ、雪に覆われた山々の斜面が色づき、陽の光が当たり始めた。
するとまもなく、東側の山並みから太陽が現れた。御来光だ。サザン・アルプスの山並みに雲海、そして朝陽…こうして幸運にも、眩き輝く美しい景観を目の当たりにできたのであった。

サザン・アルプスの御来光

朝焼けのセフトン山と氷河

クックにも陽が当たる
太陽が上がるとあっという間に昼間のような日差しとなり、景色も元通りになった。写真家はこの日の出&日の入りの一瞬を撮るために苦労を惜しまないのかと少々脱帽しながら、私は簡単な朝食を取り、テントの片付けなどを行った。この間に雲が晴れてくれないかと期待していたものの、山の斜面にへばりついた雲はなかなか取れず、クックの姿もまだ綺麗には見渡せないでいた。
しばらくして徐々に雲が上がり始めた頃、私はハットから少し先のオリビア山(Mt Olivier:1933m)まで行くことにした。ハットに泊まっていた人などは、既にオリビア山まで行って下山するところだったが、私の目論見では、登った頃にちょうど霧が晴れて絶景が広がるはずだった。
そこで岩だらけの道を、目印を頼りに登っていくと、頂上間近のところで雲海だった雲が上昇し始め、セフトン山や裏のミューラー氷河以外は見られなくなってしまった。30分ほどで頂上に着いてからは、待っていれば雲も晴れるだろうと期待するも、次から次へと雲が上がってくるため、晴れそうでなかなか晴れない…
結局1時間以上粘ったが、雲は切れず、やむなくオリビア山を後にした。そして、ハットに戻ったら軽食&水の補給をして下山するが、この時点で11時半、気がつけば50~60歳ぐらいの健脚そうなおじさんが早くも近くに登ってきていた。

オリビア山からセフトン山を望む
下山を始めると、ちょうど早めに登り始めた人たちが稜線を目前に苦しんでいるところで、1~2分に1人とすれ違うぐらい頻繁に登ってきていた(その中に日本人はいない)。下るにつれ、こんなに昨日登っていたのかと驚かされたが、1時間ほどかけてようやくシアリー・ターンズにたどり着くと、ちょうど日本人のツアー客(10人ぐらい)が到着したところで、急に賑やかになっていた。
残念ながらまだクックは雲の彼方であったが、ここでしばし(ツアー客と距離を取って)休憩していると、個人で来ていた日本人に声をかけられ、しばらく井戸端会議を開催した。すると、気がつけばマウント・クックにかかっていた雲が取れてきているではないか。ようやくその全貌が露わになり、写真で見るような美しい景観をこの目で見ることができたのだ。

シアリー・ターンズからクックを眺める

池向こうには氷河
それから、バスの時間が差し迫ってきたこともあって、私は道を駆け下り、30分ほどでケア・ポイントとの分岐点に達した。これで少々余裕ができたので、そこから10分ほど歩いてケア・ポイントの展望台まで行くと、もはやクックを遮る雲はほとんどなく、美しい姿が垣間見られる。もっとも、ケア・ポイントではミューラー氷河のモレーンが目立つので、シアリー・ターンズから眺めた方が綺麗だが。

ケア・ポイントからのマウント・クック

セフトン山からの氷河が落ちる
それから取って返して、アルパイン記念碑(Alpine Memorial)などに寄り道しつつ、午後3時半に下界に帰着。DOCに無事生還した旨報告したら、ホテルで荷物を受け取る。聞けば空港に向かうバスが4時に出るというので、小奇麗なトイレで急いで着替えてバスに駆け込み、空港へと向かった。

アルパイン記念碑

マウント・クック村からの展望
こうしてクライストチャーチ行の便に乗り込んだが、乗客はわずか4人で、機長も客室乗務員も観光気分で記念写真を撮っているほどであった。やがて定刻より早く空港を出発し、左手にサザン・アルプスの山並みを見ながら高度を上げて、マウント・クックとの別れを惜しんだ。そして、飛行機は瞬く間に雲上まで高度を上げ、その姿は彼方へと消えていった。
飛行機は予定より早く、30分ほどでクライストチャーチ空港に到着した。空港からは市バスで大聖堂まで向かい、そこから15分ほど歩いてEliza's Manor HouseというB&B(これまで2回申込んでも一杯で駄目だったが、この日はOKだった)に到着。シャワーを浴び、少々休憩したら街を徘徊するが、郊外の邸宅はどこも庭が綺麗で、さすがはガーデン・シティだ。また、ちょうど紫陽花の咲き誇る時期であり、日本とは逆の季節なのだと改めて思い知らされた。

紫陽花が咲き誇る
翌8日は昨日同様の晴天で、気持ちの良い朝であった。朝食を済ませた後は昨日同様、大聖堂まで歩き、そこで土産を調達してからは、ハグレー公園(Hagley Park)に向かう。平日の午前中ということもあって、この広大な公園も静かだったが、美しく整備された芝生と、所々咲き誇る花々が何とも心地よい感じであった。

ハグレー公園
その後、さらに足を延ばしてモナ・ベイル邸(Mona Vale)を訪れ、美しい庭園の中で早めのランチを食していると、断続的に日本人のツアー客が現れ、どれも同じような説明をして去っていく。周りから見ると何とも浮いているその姿を見て、私はなんだか恥ずかしい気分になったが、そろそろ飛行機の時間も近づいていたので撤収。その後タクシーを捕まえて無事空港に到着し、出国手続きを済ませて、17日の長きに渡る旅も終焉を迎えたのであった。

モナ・ベイル邸

美しい庭園が広がる