朝5時、わずかな期待を胸に起きてみたが、相変わらず雪が降り、霧も深く、クックの朝焼けどころではない…失意の中、まもなく朝食となり、準備を整えて7時前には出発した。今日はこれから夕方まで、過酷なアップダウンをこなさなければならないのだ。
出発時は雪だったが、それほど強いものではなく、まもなく止んで、徐々に晴れ間も覗くようになってきた。しばらくは昨日同様の岩登りが続くが、やがてボール氷河源流部にたどりつくと、氷原を歩いて登ることになる。これが思いのほか辛く、峠が近いこともあって風も猛烈で、油断していると飛ばされかねない。そうした中、確実に一歩一歩進み、まもなく峠越え、というところで休憩となった。

キャロライン・フェイスが見えてきた

氷原を登る
ここで アイゼンを履き、ピッケルを持って、使い方などをガイドから教わる。峠越えの際、万一足を踏み外した時などに対処するためだ。その後、氷の斜面を利用して練習し、さらに4人+ガイドでロープをつないで、いよいよ峠越えの出発だ。

ボール氷河源流からの眺望
ここからは5人で力を合わせてゆっくり進み、強風の中、氷の急斜面を登っていく。するとまもなくボール・パス(Ball Pass:2121m)に到達するが、峠は風が強く危険なため、そのまま急斜面を下山。ここは反対側の眺望が開けて綺麗なのだが、そんなことを言っている余裕はなく、登り以上に危険な下りを慎重に進む。足が痛くなりそうなほどの急斜面を斜めに下り、氷雪がなくなるまで歩き続けた。
こうして無事峠越えに成功し、アイゼンを脱ぎ、ピッケルを荷物に閉まって休憩となった。

峠越えの眺め

ここを下ってきた
もはや最大の難所は越えたので、後は昨日登ったような道を下るだけだ。そこでガイドに従って着実に歩いていくと、ほどなくして右手にフッカー氷河(Hooker Glacier)、そして大きなピークが見えてきた。ガイドのイワンに尋ねると、あれがマウント・クックだという。ようやくその姿を、こんなに間近に見られて感動を覚え、少し小躍りするような気分だ。

ボール・パス直下からの眺望

フッカー氷河
しかしイアンが言うには、クックの雄姿を見るなら、もう少し先からの方が良いらしい。ならばと、さらに5分ほど歩き、撮影ポイントに案内されたところで、その姿を改めて眺める。確かに、ここからは一層迫力ある姿を見せており、このツアーに参加した甲斐があったと改めて思わせてくれた。

マウント・クックの雄姿

フッカー渓谷へと下る
それからしばらく下り、草の台地になっているところで昼食となった。ここからもマウント・クックが雄姿を見せてくれ、素晴らしい限りだ。また、マウントクック・リリーやエーデルワイスといった高山植物も咲き誇っている。何やら天国に招かれたような気分である。
食事を終えると、今度は急峻な谷を一気に下っていく。最初は岩、次に岩と砂利の急な下りとなり、特に砂利の部分が足元をすくって危険だが、ここは慎重かつ大胆に下り、ついにフッカー渓谷(Hooker Valley)に下り立った。ここまで来れば、後は緩やかに谷を下るだけなので、もう心配ない。ここでしばらく休憩し、後続のグループを待つことになった。

マウント・クックの全貌が明らかに
予想よりも遅れて後続が到着したが、どうやら1人の男性が岩場で転び、足を傷めたようだ。ただちに対応を協議するが、今いるところでは無線が通じないので、30分ほど下らなければならないという。皆が心配しながら谷沿いを下っていき、まもなく無線で交信し、ヘリを呼ぶ。気がつけばフッカー氷河の末端まで来ていたが、他の参加者はそこからさらに下り、マウント・クック村のキャンプ場まで歩かなければならない。多くの人はもう何時間も歩いているので疲れ気味だが、着実に下っていく。
道は、本来ならそれほど大変ではないのだが、先日の嵐のおかげで、崖崩れで道が崩落していたり、道が川や池のようになっている箇所がある。しかも、本来なら楽々渡れる沢も相当な流れになっているので、濡れるのを覚悟で渡渉しなければならない。なかなか一筋縄ではいかないようだ。

フッカー氷河末端
こうして思いがけず時間がかかったが、夕方には一般コースとの合流地点に到着し、後は平坦で整備された道を歩くことになった。気がつけば天候は一気に回復し、クックを始めとした山々が美しい姿をさらけ出しており、周辺の氷河も青空に映えて美しい。どうやら大型の低気圧が抜けて高気圧が近づいているようで、明日以降はさらに回復してきそうだ。

セフトン山も露わになった
そして、無事終着点に到着した後は、アンウィン・ハットに戻って荷物を受け取り、The Harmitage Hotelに引き返して、ここで参加者とはお別れとなった(普通はテカポまで行って解散となる)。
このホテルは高級なことで有名だが、私は本館に泊まれるほどリッチではないので、最も安い"Chalet"を予約していた。ところがチェックインすると、ホテル側の都合で"Motel"にアップグレードされていたのでラッキーだ。
そして部屋に入ったら、まずはシャワーを浴びて疲れを癒し、その後マウント・クックを眺めながらの夕食となる。美しいクックの姿は、日の入り前に雲の中へと消えていってしまったが、ともかく今回のハードかつハプニング三昧のツアーを終えることができ、一安心であった。