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旅行記:北海道一人旅

8.最後の贅沢 (1997/7/18:晴時々曇

 苔むす岩壁

  いよいよ最終日を迎えることになったが、昨日までで目的としていた所は無事周ることができたので、今日は思いきって「お楽しみ」として、国内有数の透明度を確かめるべく、支笏湖でスキューバダイビングを体験することにした。さすがに疲れがたまっていたし、少々値もはる(1人なので1割増)のだが、最後なので目をつぶって挑戦する。

  そこで宿から車で湖面に向かうと、すぐに準備に取りかかり、私もウェットスーツに着替えたが、なかなかうまく着られない上、水が冷たく辛かった。それでも着替え終わると、湖中に潜り始め、インストラクターの方の指示に従いながら移動し、フナやスジエビなどを間近で見る。結局潜行は15分程度で終了し、動いた範囲も半径100mほどなので、良く考えると子供だましのような気がしないでもないが、貴重な体験であったことだけは確かである。

  こうして体験ダイビングはあっさり終了したが、予想以上に早く済んでしまったので、再びユースで自転車を借りて、昨日行けなかった南側の「苔の洞門」を目指すことにした。

  こちらも片道17kmであったが、比較的緩いアップダウンなので、自転車には適度な道のりである。途中のモーラップ・キャンプ場辺りからの眺めは、恵庭岳を正面にしてコバルトブルーの湖面が鮮やかに見えるので、バス停付近よりも美しく、お薦めのビューポイントである。右手に見える湖面も、昨日は曇っていたのであまり綺麗ではなかったが、今日は晴れているので非常に美しく見えた。K原氏推薦理由もようやくわかるというものだ。

  そんなこんなで洞門入口の駐車場にやって来たので、自転車を置き、しばらく原生林の中を歩いていく。すると15分ほどで入口に差し掛かり、その先には、待ちに待った緑の回廊が広がっていた。

  ここはかつて樽前山の火山岩だったものが浸食されてできた河床跡で、今では500mに渡って緑色に苔むした岩壁が続いており、神秘的な雰囲気に包まれている。切り立った岩肌に入ると、急に冷蔵庫に入ったような涼しさで、岩肌が一面苔に覆われた様は、ビロードのように美しく幻想的だ。途中かなり狭い道もあるが、往復するのもそれほど大変ではなく、大自然の神秘を手軽に味わえるのだからお得であろう。

Gate of Moss
苔の洞門

 珠玉の夜景

  こうして再び支笏湖温泉に戻ると、まもなく苫小牧行バスに乗って帰途についた。実は帰りの切符が函館からとなっていたので、そこまで鉄道で移動する必要があったのだ。

  苫小牧から乗った函館行特急は満員であったが、途中の登別で席が空き、辛うじて席に座ることができた。道中昭和新山や大沼などを眺めながら進み、やがて終点の函館に到着したのは、夕方の6時頃であった。帰りの寝台特急「北斗星」は9時46分発だったので3時間半の猶予があるが、ここはせっかくなので、夜景が美しいと評判の函館山に登ることと相成った。

  函館山へは路面電車に乗った後、少し歩き、ロープウェイで山頂に向かう。まだ外は明るかったが、既にゴンドラ内は人で埋め尽くされており、この先が思いやられた。そして山頂に到達すると、人ゴミを掻き分け、すぐに展望ハウス内のレストランを発見した。ここからは函館の街がガラス越しに一望でき、しかも食事が取れるので、私は窓側が空くのを待つことにした。

  店員の方は1時間ぐらい待つだろうと言っていたが、幸いにも予想が外れて10分ほどで窓辺の席に座ることができた。この時ちょうど灯りがつき始めていたのだが、食事を食べながら、夕暮れに黒く沈んでいく海と、輝きを増す街の灯りを堪能するのは、何物にも変え難い贅沢である。この夜景は、まるで宝石を散りばめたような珠玉の光景であり、ナポリ・香港と並んで世界三大夜景に挙げられているのも納得の美しさだ。

Night view of Hakodate
函館山の夜景

  結局 8時頃までレストランで過ごし、ついに外に出てみると、今度は芋を洗うような混雑に驚嘆した。3連休前夜のためかものすごい人手で、とても展望台からは眺めることができない…仕方なく周辺から情景を眺めて過ごしたのであった。

  そしてその後、函館駅行のバスに乗って下山するが、これがまた素晴らしい夜景が見えるポイントで徐行したり(私は左側に座ったので一層良く見えた)、車掌と運転手と客の間で漫才もどきが「演じられる」など、料金が安い割に時間を忘れさせてくれ、なかなかのものであった。

  こうして函館駅には9時過ぎに到着し、予定通り上野行の「北斗星」に乗車できた。そして翌朝には東京まで戻り、長かった北海道一人旅もこうして無事終結したのであった。

 次は海外か?!

  振り返ってみると、今回は日焼けするほど天候にも恵まれ、大したトラブルもなく無事旅行を終えることができたので、とても幸運であった。これは普段からの行ないが良いからか、たまたまなのか、それとも修論でツケがまわってくるのかはわからないが、充実した旅となったことだけは間違いない。全ての宿泊地で携帯電話が繋がらなかったり、交通の便の悪さに苦戦したこともあったが、終わってみれば全部良い思い出だ。

  ただ、今回廻ったところは北海道の中でもごく一部であり、まだその魅力の一端に触れたに過ぎない。私が考えていたところだけでも、層雲峡や富良野・美瑛、えりも岬、日高、洞爺湖、ニセコ、小樽、大沼、釧路湿原などなどが、今回立ち寄る機会に恵まれなかった。おそらく他にも素晴らしい景勝地はいくつもあるだろう。今回寄り道したところも含めて、ぜひもう一度訪れ、雄大な自然を満喫したいものである(できれば車で…)。

  一方、今回の旅のプロセスを経ることで、自分の内面的な部分も何となく変わったような気がする。実は旅の直前まで修論がうまくいかず悩んでいたのだが、北海道の大自然に触れることで、そんなことで苦しんでいる自分の器量の小ささを実感したものだ。

  また、これまで私は物事をきちんと準備立てて行なう傾向があり、若干悲観的に考えがちでもあったが、その場しのぎの旅の中で、多少なりとも楽観的に捉えられるようになったと思う。これが成長なのか退化なのか、特に修論の執筆にどう影響するのかは不明だが、幅が広がったという意味で、今回の経験は今後の人生の中できっと役立つだろう。

  ともあれ、こんな私も来年には「社会」に出ることとなるので、自由奔放に旅をするのは難しくなるかもしれない。が、できれば今後も1年に1回ぐらいはこうした機会を持ちたいものである。さしあたり2月に長野オリンピック観戦(ノルディック複合団体戦)があるが、その後は、まだ1度も行ったことがない海外への旅に挑戦したい。

  今どき鎖国を通している「侍」は皆無に等しい稀少人種かもしれないが、子供でも海外旅行が当たり前の時代なので、ぜひ早いうちに実現したいと思っている(これまでは単に機会がなかっただけ)。それがいつになるかは「神のみぞ知る」だが、少なくとも仕事だけに没頭するのではなく、これからも旅を始めとして、様々なことにチャレンジしていく気持ちを忘れずに生きていきたいものである。

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