5日目にして初めての日曜日を迎えたが、町の様子は思ったほど変化がなかった。しかし、有名な観光地では混雑が予想されるので、今日は穴場とも言うべき所を訪れようと考えていた。
知床の穴場として某ガイドブックに挙げられていたのが、羅臼湖へのトレッキングである。羅臼湖は知床峠の近くにあるが、自然センターで入手した情報では
小さな沼や湖がある遊歩道ですが、足場は悪いので長靴が必要です。湿原の植物が豊富です。交通手段としては入口付近には駐車場がないので車の方は知床峠から歩いて下さい。定期バスの運転手さんに言うと入口で降ろしてもらえます。
とある。長靴については、この時期に本当に必要なのかと思いながらも、一応昨晩購入しておいた(ついでに荷物の増加に対応してデイパックも買った)ので問題なかったが、交通手段については、バスが昼までなかったので、やむなく入口までタクシーで行くことにした。
タクシーで横断道路を上る途中では、国後島が3日目にしてようやく見られ、幸先良いスタートであった。そして10kmほど進んだ辺りで、入口はどこかと注意深く見ていると、草に埋もれた簡易階段のある所で車が止まった。何の目印もなく、とても先に何かあるとは思えない作りに驚きを隠せない。実は昨日バスから探しても気付かなかったのだが、それにも納得がいくとともに、これぞ穴場だと再認識したのであった。
入口付近で長靴に履き履き替えたら、背中に大きなリュックを背負い、肩にはデイパックを担いで、いよいよ出陣となった。入山届けも律儀に済ませ、しばらく歩くと、さっそく狭くて急な林の中の登り下りだ。木が倒れていたりすると、リュックが引っかかって大変だが、タクシーの運転手にヒグマに気をつけるよう注意されていたから、こんな私でもナチュラル・ハイにならざるを得ない。歌を唄い、手をたたきながら陽気に進んでいった。
すると、程なくして一の沼に到着し、さらにアップダウンをこなすと、まもなく二の沼も見えてきた。この辺りから道のぬかるみも目立つようになり、注意を払いながら歩くことになるが、不覚にも途中で右足が泥に埋ってしまった。やはり侮れない…

一の沼

雪残る二の沼
その後気を取り直して進み、2つの雪渓を抜けると、今度は三の沼とおぼしき湿原が出現した(ここだけ標識がない)が、ここからは道が水に完全に覆われていた。昨夜雨が降ったためかもしれないが、先ではさらに二股に「水の道」が分かれて行く手を阻んでいる。深さの違いから本物の道は見切ったものの、分岐点の深さにかなわず、ここであえなく左足も冷水に浸かってしまった。夏とは思えないほどひんやりとした感触だ。

三の沼らしきもの
なおも登り下りを続けると、しばらくして四の沼が登場。ここは木道が整備されているが、すぐに元に戻り苦戦を強いられる。やっとの思いで五の沼まで来た頃には、もはやゴールが待ち遠しくなっていたが、さらにアップダウンを繰り返すと、前方が開け、ついに木道の先に羅臼湖が現れた。この広大な自然のパノラマがまるで自分のためだけにあるようで、喜びもひとしおだ。そして最後の難所もクリアし、木道の上を歩く時は、何か勝ち誇ったように進んでいった。

四の沼

五の沼
結局1時間程で羅臼湖に到達すると、まずは長靴を脱ぎ、しばし雄大な自然を堪能する。と、横から1人の女性が現われた。謎の部族出現かと困惑したが、聞けば東京の女子大生で、羅臼湖には少し前に来たのだという。そういえば入山届けの所にリュックが置きっ放しだったと思い出したが、お互い自分のためにこの自然があるように錯覚していただけに、会って残念がることとなった。

羅臼湖
彼女が帰路についたら、私は1人で30分ほど辺りをゆっくり鑑賞し、それからようやく帰途につく。例の分岐点ではまたしても右足が水に浸かる被害にあったが、その他は何とか問題なく歩くことができた(途中の雪渓では名古屋から来た同年代の男性に会ったが、分岐点で迷い引き返したと言っていたので、正しい道を教え、景観を絶賛しておいた)。その後は2組の家族連れとすれ違ったが、日曜ということを考えれば穴場には違いなかった。
こうして帰路も辺りをゆっくり探勝しながら、無事出口にたどり着いた。ここから、先に会った女性は羅臼までヒッチハイクで行くとのことだったが、私は斜里行のバスをヒッチハイク。これで3日間に渡る知床探訪も終わり、またいつか必ず戻ってくると心に誓いながら、かの地を後にした。
斜里からは、とりあえず南下して道東有数の観光地・川湯温泉に泊まることとし、JR線に久々に乗り込む。田園風景と森林の中を抜け、1時間あまりで川湯温泉駅に到着したが、時間に余裕があったので、川湯温泉までバスを使わず歩いていく。途中で思ったよりも距離があるのに気付いたが、諦めて怪しげな遊歩道を歩いていると、突然目の前に硫黄山が現れた。日曜ということもあって大勢の観光客で賑わっていたが、私もツアー客に混じって、轟音とともに煙を噴き上げる光景を間近で見物した。
その後しばし休憩し、さらに2kmほど歩くとようやく川湯温泉に到着。ここには宿泊施設が豊富にあったが、この5日間で思いのほかお金を使っていたため、国民宿舎に泊まることにした。そして、温泉に浸かった後、翌日からのプランを熟考したのであった。

硫黄山